LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略
書籍「LIFE SHIFT」で学べる一番大事なことは、一言でいうと以下の1文です。
100年ライフの戦略的人生設計書
- 長い生涯――長寿という贈り物
- 過去の資金計画――教育・仕事・引退モデルの崩壊
- 雇用の未来――機械化・AI後の働き方
- 見えない「資産」――お金に換算できないもの
- 新しいシナリオ――可能性を広げる
- 新しいステージ――選択肢の多様化
- 新しいお金の考え方――必要な資金をどう得るか
- 新しい時間の使い方――自分のリ・クリエーションへ
- 未来の人間関係――私生活はこう変わる
ポイント
本書は各メディアでも大きく取り上げられ、本書の著者リンダ・グラットン氏と政治家の小泉進次郎氏が対談したことでも話題になりました。政治家の間でもブームになった本です。
超訳版や漫画版も出ている本書は、原書の日本語版でもとても読みやすくなっています。
この記事では、本書で伝えられている「100年時代の人生」といわれる意味と、訪れる変化、それに対し変化させるべき考え方についてまとめます。
長い生涯
日本人の平均寿命は107歳を超える
日本人の平均寿命は以下の図のとおり、年々あがっていることがわかります。
図は2015年のデータですが、令和元年の調査では、女性が87.45歳、男性が81.41歳ということです。
世界的に見ても、人の平均寿命は年々あがっており、2007年生まれの寿命は、アメリカ、ヨーロッパの主要国をとってみても100歳を超えるだろうと見られています。日本にいたっては、107歳まで生きる確率が50%あるということです。
理由は一口に言えないものですが、病気の早期発見、治療と処置の改善、禁煙などの啓蒙活動の強化などにより健康水準が向上したと見られます。そのような健康、医療に加えて、栄養、衛生、教育、テクノロジー、所得の多分野における改善が関係しているとみられています。
そのうち所得の上昇と栄養状況の改善が平均寿命上昇の要因の約25%を占めるというのが、サミュエル・プレストンという研究者の見解です。
教育・仕事・引退モデルの崩壊
過去のステージモデルは通用しない
わたしたちの親世代・シニア世代は、人生のステージが固定化されていました。
それは「教育」→「仕事」→「引退」というモデルです。
ステージの順番や期間が固定化され、当たり前となっているモデルです。
しかし、これからの時代では働かなければならない期間が増えるのはほぼ確定とみられています。
教育の期間が変わらず、引退が先送りになるのであれば、「仕事」のステージが断然長くなることになります。
親世代、シニア世代は、大学を卒業してしまえば、改めて本格的な教育のステージは不要という考えでしたが、これからの世代は大学までに受けた教育、身につけた知識だけで、定年退職まで乗り切るのは現実的ではなくなります。
現時点でも、終身雇用も崩れつつあり、情報の流通量の増加も顕著です。「学び直し」という言葉も一般的になりました。
これまでの固定からされたステージから、流動的なマルチステージへと考えをシフトチェンジする必要があります。
新しいステージ
エイジ(年齢)とステージが一致する時代は終わり、新しいステージが考えられます。
教育、仕事、引退のステージが用済みになるわけではないが、新しい位置付けがあります。
それが以下の3つです。
- エクスプローラー
- インディペンデント・プロデューサー
- ポートフォリオ・ワーカー
エクスプローラーとは探検者のことです。自分を日常の生活と行動から切り離して世界を探査し、新しい経験を追求し、自分の好きと得意を発見していくステージをいいます。何歳でもエクスプローラーになれますが、18〜30歳くらいの時期、40代半ばの時期、70〜80歳くらいの時期が転期にもなりやすく、とりわけ適した時期といわれます。
職を探す人ではなく、自分の職を生み出すステージをいいます。独立生産者とも訳される言葉を使うのは、本人の野心とスケールを正しく表現したいからです。基本的に永続的な企業をつくったり、事業を売却することを目的とするのではなく、ビジネスの活動自体を目的とします。その上で、専門知識を身につけ、学習し、生産活動に携わる時期を指します。
異なる種類の活動を同時に行うステージをいいます。
理屈の上では年齢を問いませんが、すでに人生の土台を築いた人が過去の経験を活かせるために高い価値を生み出せます。しかし、どのようなポートフォリオを築くかはバランスが重要です。スキルや経験を活かせれば良いが、過酷な勤労人生を送ってきた人は、仕事以外のことをしたくなります。支出をまかない貯蓄を増やす役割と、過去の経歴とつながりをもった知的刺激を維持できる役割、新しいことを学びやりがいを感じられる役割の3つの側面で考えるとよいでしょう。
移行期間の過ごし方
従来の教育、仕事、引退のモデルの各ステージは、境界がはっきりしていました。
転職により間にリフレッシュ期間を設けたり、留学や放浪などでインプットを強化した人もいたでしょうが、考え方としては3ステージが固定化されていたのではないでしょうか。
しかしながら、前述したマルチステージでは境界がもっとあいまいで、回数も決まっていません。
前後のステージがはっきり区別されない移行期間があるでしょう。
その移行期間の過ごし方には大きく分けて2つのタイプがあるといいます。
ひとつは長年の心身の疲れを取り除くためのエネルギーを再充填することです。
しかし、このような期間は魅力的であるものの、効果は長続きしません。
もうひとつのタイプの自己の再創造(リ・クリエーション)が大事だといいます。
新しいスキルや知識、新しい人的ネットワーク、新しい視点などを得ることに積極的にすることです。
なお、移行期間のお金をまかなうことは避けて通れないため、夫婦共に職を持っている家庭であれば、移行時期をうまく調整することも重要なことです。
これらのステージを柔軟に行き来することが新しいマルチステージの考え方です。
極端な話では、サラリーマンを貫くのではなく、退職して数年限定で起業・経営を経験して戻ったり、知識や経験を活かして柔軟に複数の役割で、自分の心地よい形にすることが新しい考え方です。
見えない「資産」
寿命が延びれば、貯蓄の重要性も高まります。しかしお金や仕事の面だけを見ていては、人間の本質を無視することになります。長寿がもたらす恩恵は、基本的にはもっと目に見えないものです。
そのようなお金に換算できない「無形資産」こそ大切だと本書ではいいます。
以前はお金をはじめとしたブランド品や車、家や土地などの不動産を得ること、つまり有形資産をより多く持つことが成功の証だったと言えます。
しかし、わたしたちがそもそもお金を稼ぐのは、それと交換にさまざまな無形のものが得られるからです。
家族や友人、スキルや知識、肉体的・精神的な健康などに恵まれた人生を「よい人生」と考えます。
これらはすべて無形の資産です。
有形資産はもちろん大切ですが、それだけに囚われた人生では長い人生が立ち行かなくなるというリスクを知っておくべきでしょう。不健康で孤独な老後は避けたいものです。
無形資産の3つの特徴は以下のとおりです。
- 生産性資産
- 所得を増やすために役立つ要素
- 活力資産
- 肉体的・精神的な健康と幸福
- 変身資産
- 自分をよく知り、多様性の富んだ人脈を持つなどの変化に強い要素
先程の新しいステージにおける移行期間では、このような無形資産に投資することも大事なことです。
まとめ
これからの長寿の時代に伴い、従来型のモデルは通用しなくなり、新しいステージの考え方と無形資産が重要であることがわかります。
これらは個人の考え方はもちろんだが、環境の変化も必要であり課題も残ります。
教育機関は、従来のステージに囚われることなく、人生のさまざまな時期に学び直しができる教育の仕方が求められるでしょう。
企業には、雇用主と働き手の関係を有形資産だけではなく無形資産の面にも目を向ける必要が出てくるでしょう。そして年齢を基準とせず、マルチステージの人生を前提とした仕組みにするべきでしょう。
そして政府には財政面や企業、教育の舵取りの役割など様々な変革が求められるでしょう。
新型コロナウイルスもしかり、従来の常識や考え方はアップデートしなければならない局面がきています。
それは目の前のひとつのことではなく、長い人生にわたる考え方、仕事の仕方、お金や時間の使い方、ライフスタイルに関わるものです。
しかしすべては自分がいかにどれだけ幸福を感じられるかということにつながります。
いままでの常識に捉われず、生涯の幸せを追い求めた結果、リ・クリエーションを繰り返すことが自然と常識になるのかもしれません。
【内容情報】
お金偏重の人生を、根底から変える。成長至上の次に来る、新しい生き方。
誰もが100年生きうる時代をどう生き抜くか。
働き方、学び方、結婚、子育て、人生のすべてが変わる。
目前に迫る長寿社会を楽しむバイブル。
世界で活躍するビジネス思想家が示す、新しい人生のビジョン。
みんなが足並みをそろえて教育、勤労、引退という
3つのステージを生きた時代は終わった。
では、どのように生き方、働き方を変えていくべきか。
その一つの答えが本書にある。
100歳時代の戦略的人生設計書。【著者情報】
LIFE SHIFT 内容紹介より
グラットン,リンダ
ロンドン・ビジネススクール教授。人材論、組織論の世界的権威。リバプール大学にて心理学の博士号を取得。ブリティッシュ・エアウェイズのチーフ・サイコロジスト、PAコンサルティンググループのダイレクターなどを経て現職。組織のイノベーションを促進する「Hot Spots Movement」の創始者であり、85を超える企業と500人のエグゼクティブが参加する「働き方の未来コンソーシアム」を率いる
スコット,アンドリュー
ロンドン・ビジネススクール経済学教授、前副学長。オックスフォード大学を構成するオール・ソウルズカレッジのフェローであり、かつ欧州の主要な研究機関であるCEPR(Centre for Economic Policy Research)のフェローも務める。2005年より、モーリシャス大統領の経済アドバイザー。財務政策、債務マネジメント、金融政策、資産市場とリスクシェアリング、開放経済、動学モデルなど、マクロ経済に主要な関心を持つ